間宮さんのニセ花嫁【完】
「んんっ、この餡子美味しいですね!」
パフェの底に詰まっていた餡を口に運んだ私はこの美味しさを伝えようと勢いよく間宮さんのことを見た。
折角だからという理由で温泉街を探索した私たちは人気のカフェで休憩中だ。
「迷ってたけどそれにして良かったな」
「うぐいす餡って食べたことがなかったんだけどハマっちゃいそうです」
「近くの和菓子屋でも扱ってるから今度一緒に行こうか」
「はい」
年甲斐もなくはしゃぐ私に対し、彼は珈琲一杯を飲むだけで周りの女性の視線を集める。カップを持つ彼の左手に嵌められた結婚指輪を見て、みんな残念そうに溜息を吐くけれど。
結婚したい男、というのは会社の中の話ではないらしい。
「というか、何処まで付いてくるんでしょうね」
彼の背中に視線を逸らせば離れた席でお茶をしている母たちと目が合った。観光している間も思ったけど、何故だか見張られているような気がする。
「席一緒にした方が良かったか?」
「いえ! 全然!?」
ここまで付いてくるってことは、私と間宮さんのこと心配なのかな。確かに釣り合っていないし、向こうからしたら私がいつ間宮さんに飽きられるか不安なのだろう。
「(実は結婚しました!、なんて言えないし……)」
どうしたものか、と頭を傾げながら私は嘆息した。その姿を間宮さんに見られているとは知らずに。