間宮さんのニセ花嫁【完】
カフェを出るとそろそろ旅館に戻ろうと二人肩を並べて道の端を歩く。同時に同じスピードで付いてくるって背後の二人に気付き、神経が磨り減りそうだ。
すると突然隣を歩いていた間宮さんに肩を引き寄せられた。
「え、何!?」
「こっち寄って、車が通るみたいだ」
その瞬間、間宮さんと反対側の道路を車が走り去る。な、なんだ、それだけか。吃驚した。
「(というか、なんで私はこんなことだけで照れてるんだ!?)」
頰に手を添えるとその熱さに驚いた。不意を突かれたせいか、それとも男性と触れ合ったのが久しぶりだったからか。
後ろで母が「今の見た!?」と必死になって父の腕を叩いているとは露知らず、私たちは旅館へ帰る道中にあったお土産屋に寄り道をした。
「会社へのお土産どうしましょう。折角だし買った方がいいのかな?」
「俺が行ったことにするよ。土産は飛鳥が選んでくれていいから」
間宮さんの家で生活する以上、お互いのことを下の名前で呼び合うのが板に付いてしまった私たち。しかし旅行先ではそれが新鮮に感じられた。
周りの人からしたら私たちって夫婦、または恋人同士に見られているのかな。それって実はかなり恥ずかしいことでは!?
「飛鳥? 悩んでる?」
「え、いや! ど、どれも美味しそうですねぇー!」
私は意識を振り払うようにお土産のパッケージを見比べるふりをする。上司にときめいていたなんて言えるわけがない。