間宮さんのニセ花嫁【完】
お土産選びに集中しようと真剣に会社のみんなが食べられそうなものを探す。すると一口サイズのお饅頭を見つけて「あ、」と、
「これなんてどうでしょ、」
「どれ?」
「っ……」
私の手元を後ろから覗き込む間宮さん。その体勢のせいか、視線の真っ先に彼の首のラインが目に入った。
首元から香る彼の匂いが鼻をくすぐった。距離の近さに気が付くと私は大きく身体を後ろに反らせた。
「いいんじゃないか? 作業しながら食べられそうだ……どうした?」
「い、いえ……」
言えない。上司の体臭にちょっと興奮してしまったなんて、言えない! 間宮さん香水付けてないはずなのになんでそんないい匂いがするんだ!?
彼からの信用を落とすわけにはいかないので「何でもないです」と無理矢理その場を誤魔化した。
間宮さんも私が選んだ土産で納得してくれたらしく、レジへと向かった。その間私は他のお土産を見ていたのだが、ふと目に入ったキーホルダーを手に取った。
この温泉街のご当地キャラだと思われる猫のキーホルダー。実はこういうご当地のアイテムを集めるのが好きだったりする。
「どうした?」
「わぁ!」
戻ってきた間宮さんの登場に声を上げると同時に私はキーホルダーを元の場所へ戻す。彼はその手元を追いながら「何か欲しいのあった?」と優しく微笑んだ。
キーホルダーが欲しいなんて少し子供すぎるだろうか。間宮さんには年甲斐もなく旅行ではしゃいでる姿を見せてしまっているしなぁ。
「な、何でもないです! 旅館戻りましょうか!」
「……」
何事もなかったように彼の隣を通り過ぎる。そういえばご当地のキーホルダー集めは最初聡が始めたものだった。彼は早々に飽きてしまったけど、私はその後も趣味の一つとしてコレクションしていた。
まるで聡のことを引きずっているみたいだなと後ろ髪引かれつつも旅館に戻った。