間宮さんのニセ花嫁【完】



お風呂から上がり母と別れると大浴場の出口付近で浴衣姿の間宮さんが立っていた。
普段から彼の和服姿を見ることは多いが、やはり旅館という雰囲気も相まってかいつもよりも魅力的に見えた。


「お、お待たせしました。部屋戻りましょうか」

「ん……顔赤い。大丈夫か?」

「だ、大丈夫です!」


逆上せた?と心配する彼に両手で頰を隠しながら必死に否定する。浴衣姿の間宮さんに見惚れていたなんて今更言えるわけがなくて。
恥ずかしさに打ちひしがれながら部屋に戻ろうとすると彼は「ちょっと待って」と私を引き留める。


「これ、良かったら貰って?」

「……これって」


そう言って彼に手から渡されたのは観光しているときに私が興味惹かれていたご当地キャラのキーホルダーだった。
これ!と顔を上げると彼は慈愛に満ちた表情で私のことを見下ろしていた。


「本当は欲しかったんじゃないかと思って。要らなかったら申し訳ないが」

「……いえ、欲しかったです」


間宮さん、気付いててくれたんだ。私が温泉から出てくるまでの間に旅館のお土産屋さんで買ってきてくれたらしい。
間宮さんから何かプレゼントをもらうのはこれが初めてだったから。私はそのキーホルダーを胸にぎゅっと引き寄せた。


「前も言ったけど、欲しいものだったりしたいことがあったら俺はそれを叶えてあげたい。だからいつでも言って?」

「っ……」


間宮さんが優しい人だって分かっている。他人の為ならば自分のことを犠牲にするほど、誰かに優しくすることに意味を見出している人だってことも。
だけどそんな愛おしそうな目で見つめられると急に勘違いしてしまいそうになって怖い。

間宮さんも、私を……って、


「(今、間宮さん"も"、って……)」


何考えてるんだろう、私。頭で考えたことを掻き消して笑顔で彼に「ありがとうございます」と感謝を伝えた。

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