間宮さんのニセ花嫁【完】



私は手にしていたスプーンを離し、姿勢を伸ばすと彼の向き合った。
あまりのご飯の美味しさの当初の目的を忘れかけてきたけれど、やはり頭の何処かでずっと引っかかっていた。何故間宮さんがわざわざこの様な二人きりになれるお店を選んだのか。


「お、お話ですよね。仕事に関することでしょうか」

「……いや、仕事は関係ないよ」

「それって、」



もしかして、と頭に浮かんだ可能性を慌てて打ち消す。もう弥生があんなことを言うから浮かれたことしか考えられない。
しかし間宮さんの真剣な表情を見ているとそんな想像すら考えられなくなった。


「少し混乱してしまうだろうから単刀直入に言うな」

「は、い……」


その次の瞬間、彼の口から語られたのは私の想像を遥かに斜めに超えていった。


「俺と結婚してほしい」


……え?

ワンテンポ遅れて反応した私は彼の言葉を頭の中で何度も反復させる。
けっ、こん? 結婚ってあの結婚だろうか。愛する二人が籍を入れて夫婦になるというあの結婚?


「ま、間宮さん何言ってるんですか? 突然結婚なんて……」

「いや、悪い。混乱させないようにと気を付けたんだが、逆に誤解を招いたようだな」


彼は再び私を真っ直ぐに見据えると先ほどの発言を訂正した。


「佐々本、俺と偽装結婚をしてほしい」

「偽装、結婚……」

「つまり、結婚したフリをしてほしいんだ」


偽装、つまり恋愛結婚ではなく何かを理由にして籍を入れるということ。
そんな単語自体が彼の口から飛び出してくることに動揺して頭が真っ白になっていた。



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