間宮さんのニセ花嫁【完】
「前も言ったが、あんまり自分のことを安売りしては駄目だよ」
「や、安売りじゃなくて千景さんのことを信頼しているんです」
「っ……」
間宮さんは私の嫌がるようなことをしない人だと知っているからこの判断ができる。そう確信している私の意志の強さに彼の目が揺らいだのが見えた。
暫くしてこのままでは拉致が明かないと思ったのか、彼か徐ろにベッドの布団を持ち上げる。
「今日は沢山歩いたから疲れただろう。早く寝よう」
「は、はい!」
そう言って彼がベッドに入って横になったのを確認すると私を後を追うようにシーツの上に体を滑らせた。
彼は私に背を向けるようにして横になっており表情は確認出来なかったが、私の提案を受け入れてくれたことが嬉しかった。
何よりも、私のことを拒絶しないでいてくれた嬉しさがジワジワと胸に広がった。
それにしても距離は離れているとはいえ同じ布団で寝るというのは考えていたよりも恥ずかしいことなんだな。
「(男の人の背中って、こんなに大きかったっけ)」
私も寝返りを打つとトクトクと脈打つ胸を抑えながら目を閉じる。なんか、こういう気持ち久し振りだな。どうしてだろう。目を閉じると今日一日の彼との出来事が鮮明に蘇った。
あぁ、確かに……私の記憶の中にいる間宮さんは凄く楽しそうにしていた。それが心からの気持ちだったらどんなに嬉しいか。
「(もう暫くはこの気持ちに名前をつけずにいたい……)」
あと少しだけ、「嬉しい」というプラスの感情のままでいたいから。