間宮さんのニセ花嫁【完】
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隣から寝息が聞こえてきたことを確認すると音を立てずに起き上がった。目線だけ隣に向けると心地の良いテンポで体を上下させている飛鳥の姿を見て何処か安堵を覚える。
気になってその寝顔を覗き込むと、幼げな表情で眠っている彼女に先程までの意志の強さは感じられなかった。
飛鳥は俺のことを頑固と言うけれど、飛鳥も飛鳥で譲れないところが多いと思う。
『や、安売りじゃなくて千景さんのことを信頼しているんです』
彼女に今まで掛けてきた優しさを後悔してしまう日が来るとは思ってもみなかった。
彼女から離れ、ベッドを降りると不思議とふっと笑みが零れた。
「(俺が駄目なんだ……)」
俺が自分を信頼出来ていない。あんな純朴な目で見つめられて、自分の汚さに改めて気付く。
やはり俺はこの子と一緒にいてはいけない。飛鳥を見ていると自然に生まれるこの感情は、俺にとって綺麗過ぎて触れられない。
寝室を出ると旅行の鞄の奥にしまっていた長方形のケースの中から白い煙草を一本取り出し、口に咥えるとライターで火を灯した。
窓に背中を預けながら夜空を背景に揺れている紅い紅葉に眺めているとふと彼女の声が耳に届いた。
『まみ、……間宮…ん』
ジッと白い煙が揺蕩う様子を見つめるとその声が徐々に明確になっていく。
『……間宮くん』
今では温度も忘れてしまった、その声を思い出したのは久方ぶりだった。
『私たち、出会わなければ良かったね』
夜中、どうしようもない後悔に駆られる姿を月だけが見ていた。