間宮さんのニセ花嫁【完】


私の誕生日当日、柳下くんが用意した会場はまさかの場所だった。


「何で寒い中、会社の屋上でご飯食べなきゃなんないわけ」


弥生はそう文句を言いつつ、身を震わせるように自身の両腕を摩った。


「今年ビアガーデン行けなかったことが残念で、でもこの季節じゃやってないじゃないですかー」

「だからって会社の屋上使っていいの?」

「許可は取ってあります!」


柳下くんのこの企画力には毎回脱帽だな。この能力が営業先でも役に立っているんだろうけど。
他の会社から借りたというバーベキュー用のテーブルを広げると、そこへ宅配で頼んだピザやチキン、お寿司までが並べられていく。結果、仕事が残っている人以外の営業部全員が集った為、初めの予想よりも大所帯となってしまった。


「皆さーん、お酒持ちました? では本日の主役である佐々本さんから一言!」

「えぇ、この状況で!?」


最早元は私の誕生日会であることを忘れている人が多そうな中で挨拶させられるとは。
私は缶酎ハイを片手に立ち上がると周りの視線を一身に受けながら即席の言葉を紡ぐ。


「ほ、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます?」

「何故疑問形?」


隣の弥生のツッコミでもう既に躓いてしまったことに気付いた。


「27歳ということで大人の女性としてまた成長していけたらいいなと思います。仕事も頑張ります」


というか最早仕事が恋人みたいな状況になってしまったのだが。すると野次馬から「結婚はもういいのか?」などと言う声が飛んできて、弥生が「それセクハラですから」と即座にやり込める。
確かに、夏頃まではずっと会社でも結婚したいなんて夢見たことを口にしていたことを思い出した。


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