間宮さんのニセ花嫁【完】
いいな、って思う人……
『あまり、自分を安売りしないようにな。心配だから』
いないこともない、けど……だけど彼は……
「あれ、係長!」
「っ……」
周りから上がった声に飲んでいたお酒を吹き出しそうになる。見ると灰色のコートを着た間宮さんが屋上に上がってきており、社員たちに出迎えられていた。
「予想よりも早かったですね」
「あぁ、みんな出来上がってるな」
「あははー、ビールありますよ!」
「いただこうかな」
間宮さんが開いていた席に腰掛けると直ちにその周りの席が埋まる。彼が部下から好かれている証拠だ。
彼が部下たちの話を聞いているのを眺めていると、柳下くんは顔面の前で手のひらを振った。
「さーさもとさん、佐々本さん!」
「は、はい!」
「酔っちゃいましたか?」
「ち、違うよ! これぐらいじゃ酔わないってば!」
「一回俺たちの目の前で失敗したの覚えてます?」
心配なんですよー、と顔を覗き込んでくるためその近さに思わず後ろへと退く。彼もアルコールが回っているのか、あまり制御が出来ていないらしい。
珍しい、いつもだったら柳下くんが私と弥生のストッパーなのに。