間宮さんのニセ花嫁【完】
「誕生日」
「え?」
「知らなくて、悪い」
気恥ずかしそうに言った彼に私は「え?」と再び驚いてみせた。
「嘘とはいえ一応結婚してるわけだし」
「い、いえ! 言ってなかったので知らなくて当たり前ですから!」
「だが普段から佐々本には世話になってるから。プレゼントも考えたんだが、結局何をあげたらいいか分からなくてな」
プレゼント、その言葉に今まで引っかかっていた彼の挙動を思い出した。もしかしてここ最近様子がおかしかったのは私へのプレゼントを探してくれていたから?
「この間直接聞こうかと思ったんだが、直前になって恥ずかしくなってな。本当に悪い」
「(可愛い……)」
間宮さん、私への誕生日に何あげたらいいか分からなくて悩んじゃうんだ。可愛いなぁ。
はは、と照れた笑いを漏らす彼にじんわりと心が温かくなるのが分かった。
「それじゃあ一つだけ欲しいものがあるんですけどいいですか?」
「いいよ、何でも言って」
「ふふ、帰ったらまた言いますね」
間宮さんが私のことで頭を悩ませてくれたことがこんなに嬉しいなんて、私は性格が悪い人間なのかもしれない。
零れ落ちる笑みが止まらなく、口元をにやけっぱなしだ。そんな状態で会社に戻ったからか、帰宅する社員の人たちに変な目で見られたがそれすら気にならなかった。
間宮さんとエレベーターに乗ると時間も時間だからか私たち二人しか乗っていなかった。
「あと、もう一ついいか?」
「何でしょう?」
「……もし違ったら違うと言ってくれたらいいから」
そんな前置きを置いた彼を不思議に思うと、彼の顔をジッと見上げた。
その形といい唇から紡がれた言葉を、私は動きで読み取ると今までの浮かれてきた気持ちがすんと冷たくなっていくのが分かった。