間宮さんのニセ花嫁【完】
次の日、私は間宮さんと間宮家の茶室で向かい合っていた。珍しく着物に身を包んだ彼は茶を点てる準備をしながらただ微笑んでいるだけの私を見て心配そうに呟く。
「本当にこれがプレゼントになるんだろうか」
「はい、前にも言いましたけど一度千景さんが点てたお茶が飲んでみたかったんです」
私が間宮さんに誕生日プレゼントとして頼んだこと、それは彼にお茶を点ててもらうことだった。以前も一度お願いしたことがあったが、機会を逃してしまっていたことを思い出したのだ。
間宮さんは久しぶりだと口にしながらも自然な動きでお椀にお湯を注ぎ込み、そして綺麗な姿勢を崩さないまま茶筅で抹茶を掻き混ぜ始めた。
間宮さんが着物で茶道するだけでどうしてこんなにも神聖な空気に包まれるのか。
ピンと張り詰めた緊張感の中、私は私のためにお茶を点ててくれている彼のことを一心に見つめ、目を逸らさなかった。
「(昨日の夜……)」
エレベーターの中で彼が口にした言葉を聞いて、私は気付いてしまった。
『今、好きなやついるか?』
知ってしまった。