間宮さんのニセ花嫁【完】
「(あれ……)」
これって、
「どうかしたか?」
「こし餡だ」
「? あぁ」
二つに割った鯛焼きの中身は私が食べた粒餡じゃなくてこし餡だった。
『良かった、うち兄貴以外みんな粒餡派』
何処か懐かしそうにそう口にしていた彼のことを思い出した。あぁ、ちゃんと彼はお兄さんの分も買ってきていたんだ。
このままじゃ絶対に駄目だ。
私は鯛焼きを置いて立ち上がると「飛鳥?」という間宮さんの声を無視して玄関へと向かう。
もしかしたらもう帰ってしまったかもしれない彼を追いかけるように家を出ると駅の方面へと駆け出した。
間宮さんも百瀬くんも、本当はお互いのことを想ってるのに。それなのに家の事情で心がすれ違った。それをずっと周りで見てきた人たちはどう思っていたんだろう。
駅に向かう途中、公園の入り口付近でスマホの画面を見つめている百瀬くんの姿を見つけた。慌てて駆け寄ると近付いてきた私に気付いた彼が驚いた顔を見せる。
「あーちゃん? どうしたの? もしかして見送り?」
「はぁ、よかった。まだ、帰ってなかった」
「迎えの車待ってるんだけど全然来なくて。でも良かった、あーちゃんが来てくれて」
「……」
私は彼のスマホを持ってない方の腕を掴むと家の方向へと引っ張った。