間宮さんのニセ花嫁【完】
「帰ろう! 百瀬くん!」
「え?」
「帰って、千景さんとちゃんと話そう?」
「っ……」
間宮さんの名前を出すと彼は私の腕を強く振り払って頑なにこちらを見ようとはしなくなった。傷ついた表情を見て、やはりあの時の言葉は彼の本心ではなかったことを確信した。
私は心を落ち着かせながら「あのね」と、
「千景さん、本当は……」
「俺のために、でしょ」
「……え?」
「家を継いだのは俺のためなんでしょ、知ってるよそんなの」
彼の口から出てきた言葉に私は開いた口が塞がらなくなる。
知ってた……?
「俺も兄貴も家を継ぐ気はなかった。だけどもし兄貴が拒否していたら、ばあちゃんは俺のことを跡取りにするっていうのは分かってた」
「……」
「家を出たいがために今の世界に入ってずっと逃げ続けてきた。だけどいつかは連れ戻されるって怖かった。でも、」
でも、と彼は悔しそうに下唇を噛み、溢れ出しそうになる本音をぎゅっと抑えた。
「兄貴は家を継いだ、俺の芸能活動を続けさせるために。分かってるけど、素直にありがとうなんて言えない」
「どうして?」
「……俺の方が、ずっと優ってきたから」