間宮さんのニセ花嫁【完】



並べられたトロフィーのことが脳裏を過ぎった。


「俺の方が跡取りになる素質があって、なのに俺は嫌で逃げ出した。その尻拭いを兄貴がしてくれてるのに『ありがとう』なんて残酷でしょ?」

「……百瀬くん」

「……俺なんか、初めから居なかったらよかった」


それは違う、口を開きかけたその時、


「それは違うぞ」


強く彼の言葉を否定する声が後ろから聞こえてきた。振り返ると息を切らしながら近付いてくる間宮さんの姿があり、それを見た百瀬くんの口から「兄貴……」と声が漏れる。

間宮さんは真剣な眼差しを真っ直ぐに百瀬くんに向けると、


「お前がいたから俺は跡継ぎになれたんだ」

「っ……」

「弟のお前がいて、才能のない俺を頼ってくれたから家を継ぐ決心ができた」


間宮さんは才能がないと言うがもし本当に才能がなければ二位にもなれていないはず。
それに稽古事の才能がなくても、彼の中にある信条や人柄は跡取り向きだと4ヶ月もの間一緒にいて痛いほど実感した。
そんな間宮さんだから、百瀬くんは最初から跡取りに相応しいのは彼だと分かっていたんじゃないだろうか。


「確かに俺はこの家を継ぐつもりはなかった。お前と同じように何度も逃げ出そうと思った」

「……」

「俺はお前のことを恨んでないよ。むしろ家を継ぐ理由が出来てよかったと思っている。俺が自分の意志では動けないってお前、分かっているだろう」


そうか、間宮さんが「他人のため」と言って家を継ごうとするのは彼の意志に従った結果なんだ。彼のあまりにも低い自尊感情が行く末を全て決めている。
間宮さんは幼い頃から優秀な百瀬くんと比べられ、自分の意志を優先としない性格を形成されたんだ。


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