間宮さんのニセ花嫁【完】
夕食中も朝とは違い二人の会話が弾むのを見て桜さんが「一体何が!?」と吃驚していた。
よほど嬉しかったのか夕食の様子を記録するためにお手伝いさんにカメラを回すように言った時はこちらが驚いたりしたが。
この家にいて久々に自分が役に立てた気がした。それだけで今は胸が一杯だ。
夕食の片付けを手伝い、先にお風呂をいただいた私は一人自室へ戻る。
今日も色々あったなと思い返した後、一息付いてテーブルの引き出しからある紙を取り出した。
それは4ヶ月前、間宮さんと交わした偽装結婚についての契約書だった。
その契約期限は2月となっており、着々と終わりが近付いていることが分かる。
私はその下の方に書かれているある一つの項目に指を這わせた。
【好きな人ができたら素直に言うこと】
この"好きな人"の中には間宮さんも含まれる、よね。彼のことが好きだと実感したあの日からずっとこの文章と夜な夜な向き合ってきた。
きっと今私が告白したら、彼は困るだろう。婚約者のふり、夫婦のふりをしていてもお互いに好意を持たないことが条件だったから。間宮さんのことだからきっと困った顔をして優しく振るんだろう。
だけどこのまま何もしなければこの関係を終わるのを大人しく待つだけだ。契約内容と本心の間で板挟みの私はその終わりを迎えることに日に日に溜息が募っていく。
「あーちゃん、いる?」
部屋の外から聞こえてきた声に契約書を裏向けると机の上のクリアファイルに雑に挟んだ。
あれ、この声ってもしかして……扉の方へ向かいそっと開くと襖の隙間から端正なテレビ映えのする顔が覗き込んだ。
「お、いたいた。遊びに来たよー」
「百瀬くん」
「部屋入っていい?」
帰るつもりだった百瀬くんは間宮さんと仲直りしたことで今日一晩実家に泊まっていくことにしたらしい。