間宮さんのニセ花嫁【完】
どうぞ、と彼を部屋の中へ招き入れると「ふーん」と辺りを見渡す。
「女の子の部屋にしては何もないね」
「そ、そうかな?」
期間が決まっているからなるべくものを置かないようにしている、なんて言えない。
用意した座布団の上に腰を下ろすと彼は意外そうに「でもさ、」と、
「なんで兄貴と部屋別々なの? 結婚してるのに」
「っ、そ、それはやっぱり実家に住まわせてもらっているわけだし!」
「えー、誰も気にしないと思うけど」
「わ、私がするから」
旅行先で一つのベッドで夜を共にしただけでもあんなに緊張したのにそれを毎晩だなんて、耐えられない。
ジッと私の顔を凝視する彼に首を傾けた。
「どうかした?」
「……いや、そういえば茶道の稽古受けてるって本当?」
「本当だよ、こう見えても作るの上手いって言われるんだよ?」
「マジ? じゃあ今から作ってよ」
「今から!?」
こんな夜にか、と思ったが彼は「明日帰るからお願い〜」と切実に顔の前で手を合わすために断りづらい空気が流れる。
というか世の女性を魅了している人気アイドルにお願いなんかされて断れる人がいるんだろうか。
「分かったよ、じゃあ準備してくるからここで待ってて」
「ありがとー」
私は抹茶やお椀を取りに行くため百瀬くんを残して部屋を後にする。
まさかこれがあんな事態を引き起こすことになるとは知らずに。