間宮さんのニセ花嫁【完】
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あーちゃんが部屋を出ていったのを確認すると思いっきり背中から畳の上に倒れこんだ。
懐かしい実家の天井を見上げながら、はぁと思い溜息が口の隙間から溢れ出る。
「(あーちゃん、ヤバいなー)」
流石兄弟というか、好きな女のタイプまでも被るとは。最初見た時から可愛いなと思ってたけど帰ることの追いかけに来てくれたのは凄く胸に来た。
だけど相手は兄貴の奥さんだし、流石に手を出すのは無しか。それにしてもこんな夜に男を部屋に招き入れるとか、無防備にも程がある。兄貴と結婚しているのに部屋が別々っていうのも気になるし。
ふと視線を天井から畳の上へ走らせる。すると部屋の隅っこに一枚の紙切れが落ちていることに気付いた。
よいしょと体を起こすと床を這いずるようにしてその紙を拾い上げる。何だろう、あーちゃんの仕事の書類とかだったら床に落ちてるの危なくないか?
ふとその紙に視線を落とした時だった。
「え?」
その紙に書かれていた内容に脳裏がフリーズする。そして同時にあの二人の間に感じた違和感の正体に気付く。
二人のとんでもない秘密を知り、自然と口元が歪むのを止められなくなった。
「お待たせー、って何見てる」
の、とお盆に茶道の道具を乗せて部屋に戻ってきたあーちゃんの視線が俺が手にしている紙に注がれた。
と次の瞬間には彼女は手にしていたお盆を畳の上に置き、そしてスライディングするように俺の元へ駆け寄ってくると紙に手を伸ばす。
しかし俺が簡単に手渡すわけがなく、伸びてきた手を避けるようにして紙を持ち上げた。
彼女の顔は見て分かるほど真っ青となっており、この紙に書かれていることの信憑さが増してくる。
「へぇ」
「っ……」
上から見下ろす俺の視線に怯える彼女の表情に獲物を見つけた獣のような興奮が湧き上がる。
「偽装結婚ねぇ」
二人が結んだ愚かな契約に笑いが止まらない。