間宮さんのニセ花嫁【完】
間宮百瀬は秘密を握る
間宮さんに偽装結婚を申し込まれた時よりも、梅子さんに婚姻届を目の前で書けと言われた時よりも、いついかなる時よりも、私は人生最大級の焦りを感じていた。
「へぇ」
上から落ちてきたその声にハッと顔を上げると百瀬くんが偽装結婚の契約が書かれた紙を片手に口を歪めて私のことを見下ろしていた。
どうしてちゃんと机の棚の中に隠しておかなかったんだと過去の自分を大いに呪った。
だらだらと垂れる冷や汗が妙に気持ち悪く、
「こ、これは……その……」
「まさか兄貴が嘘ついて結婚してるとは」
「っ……」
不味い、家族という一番バレてはいけない人に秘密がバレた。もしここから芋蔓式に梅子さんや桜さんにまで伝わってしまったら間宮家は大変なことになる。
どうにかしてここで食い止めないと! 私はその場に正座すると勢いよく畳と額をくっ付けた。
「百瀬くん、お願い! このこと誰にも言わないで!」
「うん、いいよ」
「そこをどうかっ……て、うん?」
「だからいいよって」
はい、と呆気なく返された契約書に拍子抜けする。えっと、ここはドラマみたいに残酷な交換条件を出されるとかじゃなくて?
不思議そうに彼を見つめていると百瀬くんは「何?」と心外そうに、
「何か酷い交換条件でも叩き付けられると思った?」
「お、思って……なくはない」
「……本当あーちゃん素直だな」