間宮さんのニセ花嫁【完】
彼は不服そうな顔をして「そんなことしねーよ」と荒っぽく呟いた。
「つーか、どうせこの家の都合に付き合わされてるんでしょ。それ知ってれば理由もなんとなく分かる」
「そ、そうなんだ」
「それに夫婦の癖に余所余所しいなとか他人行儀だなとかちょっと思ってたから納得」
嘘、百瀬くんにそんなことを思われていたのか。というか一応建前は夫婦なのに他人に余所余所しいと言われているのは不味いのではないか。
しかし百瀬くんは他の人にこのことを口外する様子が今の所なく、それだけが不幸中の幸いであったと言えるだろう。
「しかし、偽装結婚とか……ドラマの世界じゃないんだし」
「あ、一応事実婚なので籍入れてないんだ!」
「らしいね、一通り読んだけど二月で離婚って本気なの?」
「え?」
彼は私の元へ手渡した契約書を再度拾うとその項目に視線を走らせた。
「確かに九月に結婚してここまで来たら兄貴が家を継ぐことは変わりなさそうだけど、あーちゃんはそれでいいの?」
「……そ、それはどういう」
「だって兄貴のこと好きでしょ」
彼の言葉にあからさまに表情が強張ると「やっぱり」と鋭い眼光に貫かれる。芸能界で生きてきたからか、常に百瀬くんの観察眼は鋭くて否定してもきっと見透かされてしまうのが分かった。
しかし間宮さんのことを好きだと思われているのは非常に不味い。彼だってまだ知らないのに。