間宮さんのニセ花嫁【完】
と、終われるはずもなく。
「あーもー! あの浮気野郎! 今度会ったら絶対締め上げてやる!」
私が漏らした言葉は周りの騒音に掻き消され、溢れた涙だけがテーブルを濡らしていく。
一人沈んでいる私に対し、他の人たちはいそいそと帰る準備を始めていた。
「飛鳥ー、もう外出るよー。席空けなきゃ駄目なんだってー」
「無理ですよ、佐々本さん完全に潰れちゃってるんで」
耳に届いた二つの声。一つは同僚の松村弥生、もう一つは後輩の柳下くんのものだ。
それは理解出来ているのに私はテーブルから身体を起こすことができない。視界がボヤけ、体全体が気だるく、力が入らないのだ。
今日は会社全体の上半期打ち上げ会。大部屋を貸し切って行われた納会は終わりを迎え、二次会に行く人と家に帰る人に別れお開き状態だ。
明日からお盆休みということもあっていつもよりアルコールを摂取しすぎたかもしれない。
「まぁ仕方がないか、結婚直前に彼氏の浮気が発覚しちゃったら誰でもこうなるわ」
「松村さん、改めて声に出して言うとか鬼畜ー。確かにそうですけど」
「二人とも、同時に私の精神を抉ってくるのやめてくれないかな」
むしろわざとなのか。他人事だからって、ちょっとぐらい慰めてくれたっていいんじゃないの。
私は同じ職場で働いている人たちからも優しくされず、「うぅ」と嘆くようにテーブルに顔を俯せた。