間宮さんのニセ花嫁【完】
本当に、こんな広い家に人間が二人しかいないなんて。
それにしても梅子さんがいないと稽古も勿論ないし、折角の大晦日何をして過ごそうか。
うーんと頭を悩ませているとそれを見た間宮さんがとある提案をした。
「良かったら昼から買い物に行かないか? 天気が悪くなる前に何か食べ物を買わないと」
「あ、ですね! 年越し蕎麦も作りたいですし!」
「蕎麦か、確かにいいな」
間宮さんが笑ったのを見て少し胸がホッとした。昨日、あのアルバムを見た後から様子が可笑しく見えたから元気そうで良かった。
それにやっぱり間宮さんには笑っていてもらいたい。百瀬くんは告白した方がいいと言ったけれど、困らせることだけはしたくない。
彼は昨日の残りの片付けをするから午前中は好きに過ごしてほしいと伝えると自室に戻っていったので、私も年明けに実家に帰るのでその準備をして時間を過ごした。
昼過ぎになり、年末のテレビ番組を今で眺めていると「そろそろ行こうか」と彼が声をかけてくる。紺色のチェスターコートを羽織った彼は隣に並ぶには大人すぎて、私ももっとお洒落をすればよかったと後から後悔をした。
今を出る時、私はあることを思い出すと彼のことを引き留める。
「あの、掃除をしていて思い出したんですがこれ……」
そう言ってポケットから取り出したのはいつかのお茶会の時に彼から借りた紅い花の簪だった。
「あの時はありがとうございました。なかなか返す機会がなくて……」
「……佐々本が持っててくれないか?」
「へ?」