間宮さんのニセ花嫁【完】
彼は私の方へ簪を押し戻す。
「俺が持っていても使い道がないし、良かったら使ってくれ」
「そんな、高そうですし」
「いいんだ、佐々本に持っていてほしい」
彼の言葉に頷くと私は再び簪に目線を落とす。こんな素敵な簪、私が使うなんて勿体無いかもしれないけれど、折角の間宮さんからのプレゼントなのだから大切にしよう。
ありがとうございます、と感謝を伝えると彼が満足そうに目を細めた。
間宮さんの車で大晦日も経営しているショッピングモールへ来ていた。和食屋でお昼を済ませるとぷらぷらとお店を見て回る。
周りをよく見ている彼だからか、私が店に興味を見せると必ず「覗いてみる?」と声を掛けてくれる。
「(な、なんかデートみたいだな)」
入ったお店で洋服を眺めながら密かに胸をドキドキと高鳴らせる。大人の余裕を醸し出す彼は紳士に私のことをエスコートしてくれていた。
「気になるのあったか?」
「っ、は、はい! 試着してみます!」
「行っておいで」
全ての声色が柔らかく、本当に彼は私の旦那様なんじゃないかと錯覚してしまうほど甘い時間が流れた。
半年ほどの間、彼とは長く一緒にいてこういうのにも慣れてきたとはいえ、やはり外という新鮮な空間だとまた動悸が可笑しくなりそうだ。
それに、私が彼のことを好きになったというのも大きいのだろうけど。