間宮さんのニセ花嫁【完】



「彼女さんのお洋服選んであげているんですか?」


試着室で服を着替えている間、外で間宮さんが女性の店員さんに話しかけられた。手を動かしながらも耳と意識は二人の会話に嫌でも集中してしまう。


「彼女じゃないですよ」

「あ、ごめんなさい」

「いえ、結婚しているので」

「っ……」


当たり前のようにそう口にした彼に私は顔に熱が集まるのを感じる。
結婚か、確かにそうだけどここでは私たちが偽装結婚の契約を交わしていることを知っている人はいない。だから他にも言い方があったとは思うのにそれでも自然な流れで「結婚」というワードを口にしてくれる彼に胸が温かくなる。


「お、お待たせしました!」

「もういいのか?」

「さ、サイズを確認したかったので!」


顔の火照りが取れず、彼の前に姿を見せたら今の会話を聞いて喜んでることがバレてしまう。だから簡単に試着し自身だけで確認すると私は元の服のまま試着室を後にした。
洋服の会計をしようとすると当たり前のように彼が代わりに払ってくれた。断りを入れようとすると「いつも世話になってるから」の一点張りで財布すらも出させようとはさせてくれなかった。

これじゃ本当にデートみたいだ。

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