間宮さんのニセ花嫁【完】
「海老の天ぷらも買いましょう。蕎麦に入れると美味しいですから」
洋服を買い終わると最後に食品売り場によって年越し蕎麦の材料を買う。
私の言葉に「そうなのか?」と彼は不思議そうにしていた。
「そうなのかって、千景さんちはどういう年越し蕎麦食べてるんですか?」
「ウチは毎年母さんが作っているけど他にも色々と入ってるぞ。レンコンとか大葉とかちくわとか」
「ひえ、豪華すぎ。すみません、今年は庶民のお蕎麦になりそうです」
申し訳なさげに謝ると「気にするなよ」と笑われてしまう。だけど桜さんが作るお蕎麦ももちろん美味しいんだろうな。
来年は彼女のお蕎麦を食べて年越しがしたいなぁ。
「(……て、そうだった)」
来年はもう、ここにはいないんだった。
桜さんが言っていた通り、夕方から天気がガラッと崩れ突風と共に強い雨が降り出し始めた。
手分けして家全体の戸締りが出来ていることを確認すると私たちは夕御飯作りに勤しんだ。
「卵焼きというのは案外難しいものなんだな」
珍しく調理場に立つ間宮さんは自身が使った卵焼きを見てポツリと呟いた。
「もしかして料理苦手ですか?」
「いや、というかあまり作った経験がない。一人暮らししているときは大抵スーパーのお惣菜とかで済ませていたし」
「そうなんですね! 意外です!」