間宮さんのニセ花嫁【完】
あの完璧超人の間宮さんにも苦手なことがあったのか。新たな一面にキュンと胸をときめかせていると「いい歳して恥ずかしいな」とはにかんだ彼。あと少しの間、私はどれだけ彼のことを知れるのだろうか。
夕食は買ってきたお惣菜と家で使ったおかずを合わせた豪華なものだった。
強い風が吹いているのかガタガタと家が揺れるのを感じながら、私たちはいつもは四人で食事を囲んでいる居間で夕食を取りながら年末のテレビ番組を見ていた。
夜の七時を回り、楽しみにしていた歌番組が始まる。
「ほ、本当に百瀬くんがいる……」
毎年恒例の男女に分かれた歌合戦、その男性組のトップバッターを務めていたのは百瀬くんが所属しているアイドルグループだった。
センターで堂々と曲を披露する彼は昨日まで家にいた人と同一人物には思えないほどの輝きだ。
「百瀬くんと千景さんが兄弟って知ったら、弥生発狂しそうだな」
「松村は百瀬が好きなのか? だったらサインくらい直ぐに貰えるけど」
「いや駄目ですよ! そんな簡単にあげちゃ!」
「そ、そうか?」
弥生が百瀬くんにとんでもない額を貢いでいることを知っているからこそ、サインなんかあげたらどうなるか分かりきっている。
そのグループの出番が終わり、しばらくするとテレビに出ているはずの百瀬くんからLINEが届く。
【出番終わり! 見ててくれた?】
そのメッセージと同時に届いた今撮影したであろうアイドルスマイルを浮かべた百瀬くんの自撮りにうっと胸を掴まれる。
こんなものをタダで貰っていいんだろうか。というかこの事実がバレたら私は百瀬くんのファンの人に恨まれるんじゃ。