間宮さんのニセ花嫁【完】
彼の言葉の先を知りたくないが故に立ち上がると「お風呂の準備をしてきますね」と言って部屋を後にするようにして逃げる。ズキズキと痛む胸を押さえながら浴室へと向かうが途中で苦しさで息が出来なくなる。
もし自分と別れたら、そんな話を彼がしているような気がして。
「(馬鹿だな、私。百瀬くんには諦めるって言ったくせに)」
本当は全然諦めきれていない。
結局百瀬くんのことは言えずじまいで終わってしまった。彼は誰にも言わないと約束してくれたし、間宮さんを困らせるようなことをしそうもないから。
何よりもまた百瀬くんの名前を出した時に彼に同じことを言われたら立ち直れなくなる。
「年越し蕎麦出来ましたー!」
持ち前のポジディブシンキングで持ち直した私は出来上がった年越し蕎麦をお盆に乗せて居間へと運ぶ。
あと少しすれば今年も終わる。そんな年の瀬ギリギリを味わいながら二人でお蕎麦を啜った。
「そういえば母さんたち、この豪雨で今日は帰れそうにないらしい。向こうで一晩泊まるそうだ」
「え、ほうはんでふは!?」
「海老食べている途中に話しかけて悪いな」
そうか、だとすると今日は間宮さんと本当に二人きりで一晩過ごすことになるのか。あの新婚旅行の時に比べればまだマシだが、それでも少し緊張してしまう。
彼も海老の天ぷらを口に運び、「美味いな」と顔を綻ばせた。
「ここでお世話になってから自分の調理技術が格段に上がった気がします」