間宮さんのニセ花嫁【完】
実がそうです、と言えるわけもなく、私は阿鼻叫喚する彼女を落ち着かせることしか出来なかった。
彼が会社を辞めるというニュースはあっという間に社内中に広がり、彼のファンだった多くの女性社員がその事実を受け入れられず、ショックを受けている姿が見られたと言う。
「しかし新年早々吃驚ですよね、間宮さんがいないとか今は想像できないですけど」
柳下くんの言葉に心の中で賛同する。ずっと前から聞いていたにも関わらず、私もそうなのだから。そうか、間宮さんが会社を辞めると仕事で彼に会うことはなくなってしまうんだ。
二月になって、間宮さんとの契約が切れてしまったら、私たちを繋ぐものは何もなくなってしまう。
「(やっぱりそうなる前に……)」
一度、彼と向き合わなくてはいけない。
元日ぶりに間宮家に戻った私は間宮さんが時間差で帰ってきたことを確認すると彼の自室へと向かった。彼の部屋の前で深呼吸をすると中に向かって声を掛ける。
「あの……私です。今時間いいですか?」
「……飛鳥か?」
返事をすると足音が聞こえ、彼が部屋の引き戸を開けてくれる。あの日ぶりに顔を見合わせた私たちは会社で一度会っているというのに懐かしく思えた。
久方ぶりに彼の部屋に迎え入れられると前と同じように畳の上で彼と向かい合う。
暫くの間無言の時間が過ぎ、このままではいけないと思い意を決して口を開く。
「あの……!」
「あのさ」
「え?」
「あ、いや……」
まさかのタイミングが重なってしまい、再びきまずい空気が流れた。