間宮さんのニセ花嫁【完】
再び話す機会を失った私を見て軽く微笑んだ彼が「いいよ」と、
「先に話してくれないか?」
こうしていつも私のことを優先してくれる彼のことが好きだ。だけど私の気持ちは彼にとっては迷惑なのかもしれない。
ずっとこの優しさに甘えていていいんだろうか。
「この間にことなんですが、突然あんなことを言ってしまってすみませんでした」
私が何を話そうとしているのか初めから分かっていたのか、彼の表情は変わらなかった。
「だけど言ったことに間違いはないですし、他の人を好きだと勘違いしてほしくなくて……」
「……俺こそ悪かった。飛鳥の気持ちも考えずに勝手なことを言っていただろう」
ずっと気がかりだったのはあの契約に書かれていた項目の一つ。好きな人ができたら素直に彼に伝えるということ。
間宮さんは私が自分のことを好きになるとは思っていなかったのか、今どうするのが正解なのかは分からない。
だけど、
「あの告白、なかったことにしてもらえませんか?」
私が今一番大事にしたいことを貫けるように、
「私、この役を最後まで全うしたいんです。初めは利害の一致からでしたけどあの日の選択を後悔した日は一度もないんです」
「……」
「私なんかが傍にいるのがあまりよくないかもしれないんですけど、中途半端で終わらせたくなくて……」
彼の傍にいたいという気持ちよりも与えられた役割を中途半端に終わらせたりしたくはなかった。それはあの日、私を選んでくれた間宮さんの期待を裏切りたくないからだ。
それでも彼が迷惑だと思っているのならこの家に身を置くわけにはいかない。覚悟を決めて部屋を訪ねた私は彼の返事が聞けるまで緊張で心臓が今にも止まりそうだった。