間宮さんのニセ花嫁【完】
すると、
「いつも全部先に言われてしまうな」
「え?」
「きっと、俺も同じようなことを言おうと思っていた」
彼は顔を上げた私を見て諭すように言う。
「飛鳥が気負う必要はない。飛鳥がいて、俺が良くないと思うことは絶対にないから」
「っ……」
「むしろこんな俺を好きになってくれたことに感謝しているし、飛鳥がなかったことにしたいのであれば俺はそうするが忘れたことにはしたくない」
その言葉にあの日からずっと抱えていた後悔が少しずつ解れていくのが分かった。
自分の気持ちは彼にとって迷惑でしかないと思っていたが、実はそれは私の早とちりだったのかもしれない。
「迷惑じゃないんですか」
「迷惑なんかじゃない。飛鳥が頑張ってくれたから今の俺がいるんだ。そんな君からの気持ちを迷惑に思うはずがないよ」
「……」
「俺もここで終わるのは不本意だし、よければ最後まで協力してほしいと思っていた」
私の震えた声に真剣に答える彼に静かに頷く。好きな気持ちが受け入れられるってこんなに嬉しいことなんだと私は初めて知った。
彼と付き合えるとか、彼に好きになってもらえるとかそういうのじゃなくても、彼が私の気持ちを否定しなかっただけで温かい気持ちになる。
これが本当に好きという気持ちなのかもしれない。
「あと少しの間だが頼んでいいか?」
「っ……もちろんです、女に二言はないですから!」
いつもの調子を取り戻した私がそう宣言すると彼が嬉しそうに顔を綻ばせた。
私が彼の傍にいられるのはあと少しの間だけ。だけどあの間だけでも彼の笑顔が沢山見られるように頑張りたい。
彼を好きになったことを、彼と一緒にいた時間を後悔しないように、残りの時間を全力で全うしようと心に誓った。