間宮さんのニセ花嫁【完】
ある日、仕事から帰り居間に向かうと梅子さんと桜さんが悩まし気な顔を浮かべて話し合っているところへ居合わせてしまった。
「あら、飛鳥ちゃん。おかえりなさい。夕御飯もう少し待っててもらってもいいかしら?」
「それは全然、何かあったんですか?」
「今週末に桜が講師として参加する茶道教室があるのですが急用で行けなくなったんですよ」
どうやら初心者向けの教室らしく講師もボランティアで集めたもので、普段からお世話になっている方の頼みだったので席を空けるわけにもいかず、と二人して悩んでいるようだ。
「私もその日はお客様が家に来ますのでその対応をしなければなりません」
「そうねぇ、申し訳ないけれどお話を断りましょうか」
「あ、待ってください!」
話の結論が出そうになったのに口を挟むと二人の視線がこちらに向く。
「よければ私が代わりに出ましょうか? その日は何もないですし」
すると桜さんは目からウロコと言わんばかりに大きな瞳を輝かせた。
「そうね! それじゃあ飛鳥ちゃんにお願いしようかしら!」
「あ、でも講師なんですよね。私なんかが教えられるのでしょうか」
「相手は初心者なので大丈夫でしょう。ボランティアでの募集でしたし、そこまで経験は求められていないはずです」
それに、と梅子さんは、
「この半年間で貴女の腕前は人前で披露しても桜のような講師役と遜色はないと思いますがね」
「梅子さん……」
「なんですか」
「いや、梅子さんにそんなことを言ってもらえるとは思っていなくて」
私は彼女に稽古付けられてきた日々を思い出しては感慨深さで涙が出そうになる。