間宮さんのニセ花嫁【完】
「分かりました! この間宮飛鳥、桜さんの代役を全力で務めさせていただきます!」
これが私は間宮家にできる最後の恩返しかもしれない。そう意気込んでいると「調子に乗れとは言っていませんよ」と梅子さんが呆れたように溜息を吐いた。
しかし、初めはどうなるかと思った梅子さんとの関係も良好になり、間宮家にすっかりと馴染んでしまったがここから離婚なんて簡単にできるものなんだろうか。
「(間宮さんが良ければニセ花嫁役ずっとやっていてもいいんだけど)」
まあ、彼に私の気持ちを知られてしまった以上それは不可能なんだろうが。
それでも折角桜さんたちとも仲良くなったのにもう少しでこの生活も終わってしまうというのは寂しいものがある。
思いに更けながら休日に桜さんから頼まれた買い物を済ませ家に戻っていると、突然後ろから慌ただしい足音が近付いてくる。
「わあ!」
「うわっ!」
背中を勢いよく押され、振り返るとパーカーにサングラスという如何にも不審者だと思われる人物が立っていた。一瞬危険を察知し逃げ出そうとしたが、よく見れば私の良く知る人だった。
「なんだ、百瀬くんか」
「なんだって……一応俺芸能人なんですが」
「ご、ごめん」
彼のプライドを傷つけてしまったかと思ったが、サングラスから茶色の瞳を伺わせた彼は「久しぶり、あーちゃん」と笑顔を浮かべた。
彼を間近で見るのはこの間の年末以来だったがテレビで彼の姿を見ない日はなく、彼の言うような久しぶりな気は不思議としなかった。
「あーちゃんお買い物? 着物似合ってんね」
「ありがとう。百瀬くんこそ忙しいんじゃないの?」
「俺はちょっとあーちゃんの顔を見にね」
「私の?」