間宮さんのニセ花嫁【完】
桜さんはともかく梅子さんは勘が鋭そうだしな。ブツブツと呟くながら歩いていると不意に前を歩いていた百瀬くんが足を止め、そして気付かなかった私がその背中にぶつかった。
鼻を強打し、たぁ~と抑えながら百瀬くんのことを見上げる。
「急にどうしたの?」
「……んで」
「へ?」
百瀬くんの視線は一点を見つめて動かなくなった。
「なんで、あの人が……」
彼の視線を辿り、目の先にいる人物を捉える。するとその一人は私もよく知る人物だった。
出先からの帰りだったのか着物姿で立っている間宮さん。そして彼と話す見知らぬ女性。百瀬くんの視線は間宮さんよりも年上に見えるその女性の方に向けられていた。
「あの人って……」
私がそう口にするや否や、私の腕を引っ張り物陰に隠れる百瀬くん。驚きの行動に目を見張っていると彼の真剣な表情が目に入り何も言えなくなる。
それにしても間宮さんと一緒にいるあの女性は一体……
「なんでここに……」
「……」
私は彼の腕を引っ張ると我に返ったのか、百瀬くんの視線がこちらに向けられた。
「どうしたの? 何かあった?」
「……もしかしてあーちゃん、知らない?」
「知らないって何を?」
それにしてもあの女性、何処かで見たことがあるような気もする。しかしどこだったかは思い出せない。
すると彼は暫く悩んだ挙句、女性の正体について私に密かに告げた。
「あの人は……兄貴の元カノ」
「え?」
「それで……」
再度視線を彼女へ向ける。それと同時に百瀬くんの口から信じられないような言葉が告げられた。
「兄貴が高校の時の担任だった人だよ」