間宮さんのニセ花嫁【完】
花嫁修行、始めます
朝、心地の良い小鳥の囀りが耳を擽る。いつのまにか設定されたアラームの音で眼が覚めると数回の瞬きを繰り返し体を起こす。
よく寝たと蹴伸びをし、寝ぼけた頭で辺りを見回す。するといつも目が覚めたときの風景ではないことに気が付き、一気に思考が覚醒した。
障子で遮られた部屋に畳の匂いが鼻を香る。普段はベッドのはずの寝床も今はふかふかの敷布団だ。
どうして私はここに……
「(いや、待って! 昨日あったことを思い出そう!)」
確かあれは間宮さんとレストランを後にした後……
30分ほど走ったタクシーが到着したのは都内とは思えない程静かな住宅街だった。
カードで料金を支払った間宮さんと共にタクシーから降りると目の前に広がったのは高い塀で囲まれた日本家屋の豪邸。
横を見渡しても永遠に塀が続いているんじゃないかと思うくらいに広い家だ。
「ここ、俺の実家なんだ。良かったら上がっていって」
瓦屋根と重圧感のある木材で出来た門を潜り抜け、中に入っていく間宮さん。
どうしていきなり実家に? そしてこの家の規模は一体……? 聞きたいことは沢山あるのに彼の後に付いていくことしか出来なかった。
これまた豪華な玄関扉を開くと10人ほどの着物姿の女性が私たちを出迎える。
「千景様、おかえりなさいませ」
「ただいま。突然で悪いんだけど、この子のお世話お願いできる?」
「かしこまりました」
間宮さんの言葉に従って私の周りを女性たちが取り囲む。強引に腕を掴まれて部屋に連れ込まれた私は助けを求めるように彼の方を見るが、間宮さんは堅苦しそうにネクタイを外していた。
「ま、間宮さんっ……」
「大丈夫、また後で話をするから」
大丈夫と言われましても。あまりにも話が進むのが早すぎて何が何だか。
間宮さんは私に向かって軽く微笑むと私とは違う方向に足を進めていった。