間宮さんのニセ花嫁【完】



楓さんは私のことを信じられないような目で見つめていた。先生は「そうだった」と思い出したように彼女に話しかけた。


「田村さんは最近この辺に引っ越してきたのよね。この方は間宮飛鳥さん。まだ若いけどここで有名な間宮さんの家の奥さんなの」


丁寧な説明をしてくれた彼女の言葉に楓さんの顔色がどんどん悪くなっていくのが分かる。今まで私に話していたこと、その全てを後悔するかのように。

あぁ、知りたくなかったな。こんなところで。


「(楓さんはまだ間宮さんのことを……)」


これじゃあまるで私が邪魔ものみたいだ。

先生は他の組のところから名前を呼ばれて席を外す。残された私たちの間には気まずい空気が流れていた。
なんと話しかけたらいいか分からず黙り込んでいると、沈黙を破ったのは楓さんの方だった



「そう、間宮くんの……」


彼女の口から聞こえてきた間宮さんの名前にぎゅっと胸が締め付けられた。楓さんは困惑した表情を浮かべながらも私を不安にさせないように笑みを向けた。


「さっき教師をやっていたって言ってたけど、実は間宮くんの高校の時の担任をしてたことがあったのよ」

「……そうなんですね」

「ええ……」


彼女の懐かしむような口ぶり。しかし私は二人が会っていることを知っている。
先生は楓さんが最近引っ越してきたと言っていた。もしそれが間宮さんに会うためだったとしたら。


「間宮くんは元気?」

「っ……」


彼女は私が二人が会っていたことを知らない。だから誤魔化すように言うその口振りを聞いて、今までに感じたことのない疎外感と共に底知れぬ嫉妬の感情が沸き上がってきた。

今まで憶測に思えていたことが全て確信へと変わる。

この人は今でも間宮さんのことが好きで、彼に会いに来たんだと。


「元気ですよ」


罪悪感だけが心の中を渦巻いていた。



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