間宮さんのニセ花嫁【完】
整理整頓された和室で待っていると暫くして湯呑が乗ったお盆と共に紗枝さんが部屋に入ってくる。
私は腰を上げると慌てて彼女に駆け寄り、そのお盆を受け取った。
「すみません、突然押し掛けたにも関わらずお茶まで」
「気にしないで。久し振りに飛鳥ちゃんが遊びに来てくれて嬉しいのよ」
着物屋さんを営んでいる紗枝さんの家におつかいとして来ることはあっても今日のような用事もなく尋ねることは初めてだった。
彼女はテーブルの上にお茶が入った湯呑を並べると私と向かい合うように腰を下ろした。
「それで話って? 千景に関係することだとは伺っていたけれど」
「……」
私は持ってきていた鞄の中からあるものを取り出す。それをテーブルの上に置くと彼女が驚くように目を見開いた。
それはいつだか間宮さんが私にくれた紅い花が付いた簪だった。
「これ、どうして飛鳥ちゃんが?」
「……千景さんから頂いたんです。私が持っててと」
「……」
「あの、これについて分かることありますか?」
そう尋ねると彼女はあからさまに私から目を反らし、悩まし気に表情を歪ませた。
やはりそう簡単には教えてくれそうにないか、私は念押しをするようにその名前を口に出した。
「この間、田村楓さんという女性と会いました」
「っ……どうして」
「茶道教室のボランティアに参加した時にたまたま。最近ここに引っ越してきたみたいです」