間宮さんのニセ花嫁【完】


高校の時の担任なのであれば、同じクラスだったはずの紗枝さんなら彼女のことを知っているはずだ。
きっと間宮さんは自分から話してくれない。話してくれたとしても「人を傷付けたこと」で後悔をしている彼にそのことを話させて悲しい顔をさせたくない。

それでも、私は彼女のことを知らないまま彼と別れるのは後悔が残りそうだったから。

彼女は私の話に悩んだ後、意を決したように「ちょっと待って」と立ち上がる。


「千景、先生のことは正志によく相談していたから。正志を呼んだ方が詳しい話が聞けるかもしれないわ」

「そうなんですか?」

「うん、少しだけ待ってて。直ぐ来ると思うから」


紗枝さんが正志さんに連絡すると想像以上の速さで彼は部屋に駆けつけてくれた。
仕事を抜け出してきたらしいが、ベタ惚れである奥さんの紗枝さんの呼び出しに反応せずにはいられなかったらしい。

彼は私を見るなり「飛鳥ちゃん久しぶりだな!」と笑顔を見せたが、私が楓さんの名前を出すと神妙な表情に変わった。


「田村先生、引っ越してきてたのか」

「知っていたの?」

「いや、最近似た人を街で見かけるなと思っていたけど、本人だとは思っていなかった」


正志さんの真剣そうな声を聞くのはこれが初めてかもしれない。


「先生のこと、千景が隠している以上飛鳥ちゃんに良くない話かもしれないけど、それでも大丈夫?」

「……」


私のことを思ってなのか、彼は心配げに気を遣って尋ねてくれた。
間宮さんの昔の恋人の話、正志さんが心配してくれることも分かる。だけど紗枝さんのところへ訪ねた時点で覚悟は決まっている。

私はその言葉の返答の代わりに深く頷いてみせた。

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