間宮さんのニセ花嫁【完】



脳裏に残っていたのはタクシーでの彼のニヒルな表情だった。まるでここまでの流れを想定していたかのような、計画通りと言わんばかりに歪んだ口元。


「あ、の……一体何処へ……」

「まずはお風呂に入りましょうか」

「お風呂!?」


私、やっぱり何かを早まってしまったのかもしれない。

数十分後、私は寝間着に身を包み、和室の布団の上に座っていた。
あの大人数の女性たちによって脱衣場に連れてこられ、まるで追い剥ぎにあったように服を脱ぎ捨てられた後、その勢いのまま広い浴場に投げ出された。


「(もう訳が分からない……)」


お風呂を出た後、まるで物語に出てくるお姫様のように鏡の前で髪の毛を丁寧に乾かされ、高そうな生地の着物に腕を通された。
そして連れてこられたのがこの部屋。寝る準備も万端と言わんばかりに布団が引かれていて吃驚したけれど。


「千景様をお呼びしますので暫くお待ちください」


私の身体を洗ってくださった女性の中の一人がそう告げて部屋を後にする。さっきまで大勢の人に囲まれていたこともあり、急に一人になったことで肩の力が抜け、私は布団の上にこてんと横になる。

なんか精神が慌ただしい一日だったな。あんな高級そうなレストランに連れてこられて、偽装結婚申し込まれて、承諾したらいきなり実家だし。
間宮さんが来たら色々聞きたいこともあるけど、少し疲れてしまった。


「(あぁ、急に静かになったら眠気が……)」


アルコールを摂取していたこともあり、私は襲い来る眠気に勝てず瞼を落とした。


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