間宮さんのニセ花嫁【完】
間宮さんは部屋に入ってくると未だに敷き布団の上にいる私の隣に腰を下ろし正座する。
「昨日は驚かして悪かったな。改めて話をしようと思ったんだが部屋を訪ねた時に気持ちよさそうに寝ていたから、目覚ましのアラームを掛けて部屋を出たんだ」
「あ、そういえば……」
枕元を確認するとデジタルの置き時計が置かれており、その時計は朝8時過ぎを示していた。
「すみません、大事な話の前で寝てしまって」
「いや、昨晩は慌ただしかったからな。朝の方が落ち着いて話ができるかと思ったんだ」
改めてだけど、高級旅館のような和室と朝から爽やかな笑みを浮かべる間宮係長というこの状況は一体……
「それで話というのは、」
なんでしょう?と口を開いた瞬間、私の腹部から地を這うような滑稽な音が部屋中に響き渡った。
まるで時が止まったように動かなくなる間宮さんに「やってしまった」と顔色を悪くすると、突然彼が吹き出すように笑い声を上げた。
「ふはは、悪い。お腹空いたよな」
「え、っと……そうですね」
「朝食を準備してるんだ。それを食べながら話そう」
待っててと私に合図すると彼はスマホで誰かを呼び出した。
その姿を眺めながら、私はそっと自分の左胸を押さえて胸の高鳴りを鎮めようとする。
着物姿といい、珍しい笑い方といい、今日の間宮さんはいちいち心臓に悪い。
胸キュンをさせるのであれば、まず何か一言置いてからにして欲しいのだが。
暫くして「失礼します」と襖の外から声が聞こえると次々と女性が御膳台と料理が乗せられたお盆を持って部屋に入ってきた。その中には昨日私のお風呂に入れた方も何人かいる。
私が寝ていた布団も片付けられ、目の前のお膳台に料理が並べられていく。真っ白な炊きたての白米にお味噌汁、焼き魚に煮物まで、とても豪華な朝御飯だ。