間宮さんのニセ花嫁【完】
あぁ、やっぱり私、諦め切れないや。
私の元へ駆け寄ってくる彼の表情は今まで見たどんな顔よりも必死で、それすらも愛しく思えてしまった。
「間宮さん、どうしてここに……ひゃっ!」
走ってきた彼が私の腕を引くと自分の腕の中に閉じ込める。間宮さんに抱き締められているという現実に一瞬夢を見ているのではないかと勘違いしそうになる。
しかし今目の前にあるこの温もりは確かに現実だ。脈を打つ音も、荒れた息も、彼の匂いも全て。
「ま、間宮さん? どうしてここが……」
「辛いことがあったらここに来てたって前に言ってただろ」
「あ、」
それは間宮さんが私の実家を一緒に訪ねてくれた時。その帰りに言った言葉を彼は覚えててくれたんだ。
嬉しい、それだけで幸せな気持ちになる。これ以上知ってしまったら引き返せなくなるほどに彼から与えられる幸福に溺れている。
「……楓さんは、」
「……」
「間宮さん、楓さんのことが好きだったんじゃ……」
だから私は二人のことを思って身を引いたのに。
私の言葉を聞いて腕の力を緩めると、彼は自分のコートからあるものを取り出した。
それは私が楓さんに返した紅い簪。
「これ!」
「さっき先生から返してもらったよ」