間宮さんのニセ花嫁【完】
間宮さんの気持ちはあまりにも純粋で、それでいてあまりにも残酷だった。
「昔は裏切られた気持ちになったけど、今なら分かるよ。俺も同じ立場ならそうしていたと思う」
「……」
「これはその時に返してもらった」
出会わなければ良かった、その言葉の呪いは重い。十年経っても人を好きになるのを躊躇うほどに。
きっとこれから先、誰も好きになることなく一人で無駄な時間を過ごしていくんだと、
「(そう、思ってた……)」
しかしそれから十年程して、そんな気持ちを覆すような人が目の前に現れた。
『間宮さんが傷付くことで悲しむ人の気持ちはどうなるんですか』
『……』
『間宮さんが我慢すればいいなんて、そんな問題じゃない』
誰かを傷付けるぐらいなら自分が我慢すればいい。それが一番の方法だと疑わなかった俺にそれが可笑しいと怒鳴ってくれた人。
そうすることで傷付く人がいるということを教えてくれた人。
結局、誰かを傷付けずに生きていくなんて最初から無理だったのかもしれない。
『これ、返すね。私が持っていても、仕方のないものだから』
そう言って簪を竹垣の隙間から差し出してくる先生。受け取る勇気のない俺を見て彼女はふっと柔らかい笑みを浮かべた。