間宮さんのニセ花嫁【完】
随分と前よりも綺麗に見えたのは気のせいだろうか。
「綺麗だな」
「私も今、同じこと考えてました」
「そうか……いや、飛鳥はいつも綺麗だよ」
「え、えぇ……」
度直球を貫いてくる間宮さんの台詞に顔を赤らめていると彼が私の頰に指を添えて「本当だ」と囁く。
暗くても分かる、彼の瞳の中に私の顔が映っている。そのことがどれだけ凄いことなのか、漸く気付くことが出来た。
「好きだよ」
「っ……」
甘く囁いた唇がゆっくりとキスを落とす。初めて共有した熱を私はきっと忘れないだろう。
重なった指を絡めるともう二度とは解けないようにと結び直した。
唇が離れると彼はふと海に視線を投げ、そして微笑む。
「帰ろう、手が冷えてる。このままここにいたら風邪を引く」
「ふふ、間宮さんの手はあったかいですね」
「ここまで走ってきたからな」
繋いだ手を離すことなく、私たちは同じ道を歩んでいく。
それはこれまでと同じように思えて全く違う、新しい一歩だった。
誰かを傷付けたら謝ればいい。傷付いたのなら互いに癒し合えばいい。
後悔だって何だって、きっと何も怖くない。
願わくば、この指がいつまでも解けませんように。