間宮さんのニセ花嫁【完】
首の皮一枚で繋がっていたのか。彼女の話を聞きながら私は「それにしても」と思い止まる。
偽装結婚のことを知っていたのに梅子さんは私の稽古を毎週欠かさず付けてくれていたし、ちゃんと家族として認められていることも伝わってきた。私たちが本当の夫婦じゃないって分かっていても私のことは家族として受け入れてくれたのかもしれない。
そのことに気付くと自分が周りの人に恵まれていたということがよく分かる。
「ですが、もう心配はいらないのですね」
「……あぁ、大丈夫だよ」
「っ……」
そう言って私の手を取った間宮さん。赤く頰を染めた顔で彼を見つめていると梅子さんが小さく微笑んだ気がした。
「分かりました、こちらの婚姻届はお返しします。貴方たちの好きにしなさい。今回のことは私にも責任がありますから」
「ばあちゃん」
「一度貴方の当主も白紙に戻しましょう」
「え゛……」
彼女の言葉に二人揃えて驚きの声が漏れる。白紙って、もしかして嘘を付いていたから間宮さんが家を継ぐ事はなかったことにってこと?
しかし私の考えていることを察したのか、梅子さんは呆れたような表情で「そんなわけないでしょう」と深く溜息を吐く。
「時期を改めると言っているのです。まだ私も直ぐに死ぬようなことはありませんし、今直ぐに当主を継ぐ必要はないということですよ」
「え、じゃあ……」
「えぇ、籍を入れるなり何なり当分貴方たちの好きなようにしなさい。元より千景の人生を縛る資格は私にはありませんから。そうでないとまた今回のような馬鹿げた行動に出る可能性もあります」