間宮さんのニセ花嫁【完】
いや、多分偽装結婚よりも大胆な行動って他を考えても浮かばないのだが。
だけどもしかしたらこれで間宮さんは仕事を続けられるのでは?
彼を見ると「その必要はなかったこと」を思い知らされた。
間宮さんはもう気持ちが決まった表情をしていたからだ。
「いや、俺は家を継ぐよ。もう気持ちは決まっているし、今更やめようとも思っていないから」
「……そうですか」
「確かに昔は家のしきたりだとか用意されたレールの上を歩くのが嫌になったこともある。どうして俺だけがって家を憎んだこともあった。そんな俺のことを思って与えてくれた十年間を無駄にしたくない」
それに、と彼は私の手を掴んでいる方の手に力を入れる。
「もう大丈夫だから、心配をかけて悪かった。あと会社は辞めるし、今ここで当主も外されたらこの歳でニートはちょっとな」
「っ……」
そう言って困ったように微笑んだ間宮さんに私はプッと吹き出すように笑いが溢れた。
きっとこの家じゃそんなことを心配する必要はないし、私だってもし何かあったときは彼を養う覚悟は出来ている。
間宮さんが梅子さんの前でこんな冗談を言えるくらいに羽を伸ばしていることが心から嬉しく感じる。
梅子さんはそんな彼の様子に「私も過保護すぎましたね」と何かを反省したように呟いた。
「ではこれからも気を引き締めるように。よろしくお願いしますよ」
「勿論」
「あと飛鳥さんはこの家の正式な嫁になるのであれば更に厳しく行きますからね、覚悟しておいてくださいね」
え、何故か今私だけ忠告をされたような気がする。