間宮さんのニセ花嫁【完】
だけど本当は、そうやって他愛もないことで笑ってくれるようになって嬉しい。間宮さんが笑顔なのが私は一番幸せだから。
間宮さんがずっと隣で笑っていてくれたら、もう他に何もいらないくらい。
「(って、大袈裟だったか……)」
部署からこのビルのエントランスまでずっと手を引いていたので周りの人たちの視線が気になったが気にしない。何故ならもう私たちは上司と部下という関係ではないのだから。
彼は「じゃあ」と名残惜しそうに手を離すとこちらを振り返った。
「今日はまだ仕事するのか?」
「はい、少しだけ……でも千景さんのお陰で元気充電出来ました!」
「はは、好きなだけどうぞ」
間宮さんの大きな手が私の頭を優しく撫でた。
それはずっと前から変わらない、彼の好きなところ。
「今日の夕御飯はサバの味噌煮だそうだ。帰ってくるの待ってるから一緒に食べよう」
「え、いいんですか?」
「あぁ、構わない。だから頑張っておいで」
ずっと結婚が幸せのゴールなんだと思っていた。母と父のような夫婦に憧れて、結婚を夢見る日々はもう終わり。
好きな人が隣で笑ってくれる、それだけで幸せにゴールはないって不思議と思えてくる。
「っ……はい!」
きっと玄関を開けたら彼が笑顔で出迎えてくれる。
「おかえり」という声が待ち遠しくて、私は走って帰るんだろうな。
二人で見つけた愛の形が永遠になる日を楽しみに。
【完】