間宮さんのニセ花嫁【完】
失礼しますと呼びかけた後、引き戸が開かれると広い部屋に一人の着物を着た女性が背中を向けて座っている。間宮さんは廊下に座ったまま、再度部屋の女性に呼び掛けた。
「ばあちゃん、連れてきたよ」
すると背中を向けていた白髪混じりの女性が私たちの方を振り向いた。
目尻に皺が寄っているその女性は私を見るなり厳しく目を細める。お手伝いさんたちから聞いたイメージとはかけ離れており、少しだけたじろぐ。
「その子が貴方の婚約者ですか」
「うん、挨拶がしたいんだけど中に入っても大丈夫かな」
「……構いませんよ」
部屋に入るお許しを頂き、敷居を跨いで和室に入る。一気に緊張感が増して言葉数が少なくなる。
ど、どうしよう。もし本当の婚約者じゃないってバレてしまったら、この段階で偽装結婚の契約は終了となってしまう。
「俺の婚約者の佐々本飛鳥さん。同じ会社で働いているんだ」
「は、初めまして。佐々本飛鳥です」
弾き出されるように自己紹介をするとジロリとまた厳しい目が私に向いた。
間宮さんのお婆さん、梅子さんはお手伝いさんからは家族思いな人だって聞いていたけど、それって逆に家族以外にはそんなに……って意味なんじゃ。
「聞かない名前ですね」
「一般人だから。家のことも話して了承はもらってるよ」
「それにしても遅くありませんか? 約束の期限はとうの昔に伝えてあるはずですが」
「……遅くなってごめん。だけどこの家を継ぎたい気持ちは本物だから」
間宮さんと梅子さんの会話を聞きながら「間宮さんが言っていたのはこれか」と一人納得する。梅子さんに認められないと跡継ぎにはなれないんだ。