間宮さんのニセ花嫁【完】
正座している膝の上に置いた拳が汗で滲み始める。すると梅子さんが不意に私の名前を呼んだ。
「飛鳥さん……と言いましたね。貴女はこの家の事情は聞きましたか?」
「は、はい! まみ……千景さんから話を聞きました」
間違えて苗字で呼びそうになったところを慌てて言い直す。
「では茶道は普段から嗜んでらっしゃるってことでよろしいですね」
「えっ……」
予想していなかった質問に言葉が詰まる。茶道の経験なんてほとんどないに等しい。
そこの話は合わせていなかったと間宮さんの顔を横目でチラリと見るが、彼は全く私と目を合わせようとしていないのか、真っ直ぐに前を見つめたまま動かなかった。
え、これ本当のことを言っても大丈夫なの。
「学生の時に、一度だけ」
「一度……大学はどこを卒業されてるんですか?」
「えっと……一般の私立大学です……」
名前を通っていない大学名を出すのは気が引ける。すると梅子さんは暫く黙り込んだのち、はぁと呆れたように溜息を吐いて間宮さんを見た。
「千景、よく家を継ぎたいと言いましたね。私がこれで納得すると思いましたか?」
「約束は来週までに婚約者を紹介する、だったと思うけど」
「"私が納得できる"婚約者を紹介する、です。この意味を理解してるんですか?」
間宮さんと梅子さんの間でバチバチと火花が飛び散る。私はそれを眺めていることしか出来なかった。
「千景、間宮の人間になるということがどういうことか分かっていますか? 間宮の人間になれば周りから高いレベルを求められます。それに一般人を巻き込むというんですか?」
「……」
それは私が間宮さんの花嫁になると間宮の名前を貶すことと同じという解釈が出来る。確かに突然現れたこんな小娘が跡継ぎの嫁になること自体がおかしな話だ。