間宮さんのニセ花嫁【完】
「分かりました、約束の期限を延長しましょう」
「え゛……」
「これから貴女をうちの家に相応しい人間になってもらうために稽古を付けさせていただきます。そして私がこの家に嫁ぐものとして相応しいと認めたとき、この結婚を許し千景を跡継ぎにすることをします」
け、稽古? 梅子さんの言葉にいくつかの疑問が浮かび首を傾げるが、間宮さんは「分かりました」と即答で返事をした。
「ですが、いつまでも上達具合が見受けられない場合、この婚約は破棄。跡継ぎも諦めてもらいますよ。それでも継ぎたいという場合はこちらが選んだ女性と籍を入れてもらうことになりますが」
「……うん、分かった」
こちら側が選んだ、つまり梅子さんが選んだ相手となるとそれはお見合いになるんじゃ。
間宮さんが跡を継ぎたいとしてその結婚相手は誰でもいいと考えているんなら、結果的にその方が全てが穏便に済むのではないだろうか。
「では早速ですが、貴女全く座り方がなってませんよ」
「へ?」
梅子さんから今まで以上に厳しい目を向けられ、思わず背筋がピンと縦に伸びた。
「先程の汚いお辞儀もなんですか、礼儀というものがないんですか。元より姿勢が駄目です。一つ一つの動きのバランスが悪い。美しくありませんよ」
流れるような罵倒に一瞬気を失いかけたが何とか気を保つ。というか先程口にしていた「稽古」とは一体なんなのか。間宮さんも笑顔で答えていたけど。
「先程、この家に相応しい人間になるとおっしゃいましたね」
「は、はい!」
「その言葉、お忘れにならないでくださいね」
初めて梅子さんの笑顔を見た時、汗がたらりと額に垂れた。