間宮さんのニセ花嫁【完】
数時間後。
「ですから! 摺り足がなっていないと言ってるんです!」
バチンと強く突っぱねられ、戦慄するように身体がビクリと反応した。
「何度教えたらいい加減出来るんですか。それから一歩が大きすぎると何度も言いましたよね」
「す、すみません」
「この動作は基本中の基本ですよ。よくこのような悲惨な状態でうちに相応しい人間になると言いましたね」
梅子さんの部屋に私だけが残り、突然始まったスパルタレッスンに私は息絶え絶えだった。
稽古をするって、和室での作法やマナーを身に付けるってことだったのか!
「身体が硬い! 足元に集中しすぎて姿勢が前屈みになっていますよ!」
「は、はい!」
彼女が私の姿勢を正させるために肩を後ろへ強く押す。すると私の腰から聞き慣れないグキリという音が聞こえ、激痛が身体に走った。
自分で教養がないと言っておきながら、それでもこの稽古はスパルタすぎるのではないか。
「(これも偽装結婚のため……)」
というか、当の本人の間宮さんは私を置いてどこに行ったんだ!?
「そろそろ夕食の時間ですね。本日はここまでにしましょう。明日は茶道の稽古をしますので覚悟なさってくださいね」
「あ、明日もっ……」
明日もあるのかと梅子さんを見上げると鋭い目付きで睨まれ、まるで蛇に睨まれたように動けなくなる。
ずっと正座をしていたせいか、足が痺れてジンジンする。はぁーと息を吐きながら脚を摩っていると梅子さんが腰を上げた。
「足の痺れが取れたら台所に行ってください。きっと今頃桜が夕食の準備をしてますので花嫁修行ついでに手伝っていただきます」
「桜……?」
初めて聞く女性の名前に首を傾げると彼女は「はい」と、
「千景の母親です」