間宮さんのニセ花嫁【完】
梅子さんから教えてもらった道順で家を進んでいくと何処からかお味噌汁のいい匂いが香ってくる。
匂いがする部屋の引き戸を開けると桃色の花柄の着物をたすき掛けで結んだ女性が見えた。
声を掛けるか悩んだが、ずっとここで見ているのも不審者じみていて嫌なので勇気を振り絞る。
「あ、あのー……」
私の声で振り返ったその女性は私を見るなり「あらあら」と顔を綻ばせた。想像していたより随分と若い人だったので驚いた。
「こんにちは、飛鳥さんよね?」
「は、はい。佐々本飛鳥です」
「千景の母の桜です。ご挨拶が遅れてごめんなさいね」
「いいえ! こちらこそ!」
本当にこの人が間宮さんのお母さんなんだ。お姉さんって言っても信じてしまうくらいに若く見える。
長い黒い髪は後ろで纏め、頰に乗せたピンクのチークが印象的。笑うと周りが花が咲くような可愛らしい女の人だった。
そういえば梅子さんも間宮さんのおばあちゃんと聞いていたけど、お肌とかピチピチだったし、お若いんだろうなぁ。
「もしかして夕食の準備手伝いに来てくれたの?」
「あ、はい! お手伝いします!」
「嬉しいわぁ。でも残念、もう殆どやることが残ってないのよ」
「何でも大丈夫ですよ、盛り付けでも何でもします!」
そう言うと大きな鍋に入った里芋の煮物を大皿へ移し替えるという仕事を貰い、早速鍋を開けてみると出汁のいい匂いが鼻をくすぐった。
今日朝に食べたご飯も、全部桜さんが作ってるって間宮さん言ってたな。
そういえば私、お昼も食べてなかった……
「(もしかして盛り付けのセンスを求められてたりする!?)」
緊張しながら里芋の崩さないように鍋から皿へ移動させていると不意に横から強い視線を感じる。
目を向ければ桜さんがその大きな瞳を開いて私の顔を凝視していた。