間宮さんのニセ花嫁【完】
「な、にか……」
「あ、ごめんなさい。千景から聞いてはいたけど、凄く可愛らしい方で吃驚しちゃって」
「えっ……」
頬をピンクの染めて笑う彼女に「全然梅子さんと雰囲気が違う!」と愕然とする。本当に親子なんだろうか。
「跡取りの問題で結婚を急かしちゃったみたいで申し訳なくて……だけど飛鳥さんが来てくれたよかった」
「ははあ……」
そうか、今まで間宮さんが誰もこの家に連れてこなかったとすると、私は最近出来たばかりの彼女ということになっているのか。
桜さんはほうれん草のお浸しを包丁で切りながら、間宮さんに似た穏やかな口調で話を続けた。
「あの子、ずっと自分の家のこと気にしてか恋人を作らなかったみたいで。だから昨日の夜、突然彼女を連れてきたって言い出すから私も母も驚いてしまったのだけど」
「……」
「母は婚約者を用意するって言っていたんだけど、母親からすると好きな人と結婚して貰いたいと思ってたの」
好きな人、その言葉に私はギリッと胸が痛んだ。
桜さんは私が間宮さんの婚約者だと思って喜んでくれている。だけど私と間宮さんは契約で結ばれたニセ婚約者同士だ。
今日初めて、人を騙すことの罪悪感で苦しめられる。
「さっき千景から聞いたけど、母から厳しく稽古付けられたみたいでごめんなさいね」
「い、いえいえ! 桜さんが謝ることじゃっ……」
何も話していなかった間宮さんからはちょっと誤ってもらいたいなとは思いますけど。
「母が話していた婚約者の方も昔からこの家とよくお付き合いしてくださってるお家の娘さんだったの。でも折角千景が連れてきたくれた女の子ですから。何か私に出来ることがあったら言ってくださいね」
「……はい」
桜さんの笑顔を見ていると、本当に胸が切なくなる。間宮さんはこんな優しい人を騙してまでもこの家の跡継ぎになりたいんだ。
「(やっぱり、もう一度話しなきゃ……)」
この話、私が思っていたよりもずっと深刻だ。